【お先見】ヒュー・グラントとベン・ウィショーの演技は必見!政治家と庶民の禁じられた愛を描く『A Very English Scandal』 – 海外ドラマNAVI編集部 アメリカ支局なう!!

1960年代後半のイギリスで実際に起きた政治家の衝撃的なスキャンダル、ソープ事件を描いた英BBCドラマ『A Very English Scandal(原題)』。実在の政治家ジェレミー・ソープ役にヒュー・グラント、その元恋人ノーマン・スコット役にベン・ウィショーがキャスティングされたのは、以前このサイトでもお伝えした通り。イギリスでは高い評価を得て、英国アカデミー賞(BAFTA)へのノミネートは間違いないと言われる本作を今回はご紹介しよう。

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ソープ事件とは、わずか38歳にして自由党の党首となり、将来が約束されていたソープが、同性愛関係にあった元恋人スコットの殺害計画を立てていたというもの。英ジャーナリストのジョン・プレストンによる同名のノンフィクション小説をドラマ化した3話構成のミニシリーズで、脚本は英人気ドラマ『ドクター・フー』『秘密情報部 トーチウッド』のラッセル・T・デイヴィースが担当。監督は、ヒューも出演していた映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』や『マイ・ビューティフル・ランドレット』などのスティーヴン・フリアーズが手掛けた。

この『A Very English Scandal』、とにかく主演の二人が素晴らしい。イギリスのTVドラマに出演するのは実に25年ぶりというヒュー。かつてラブコメでチャーミングな独身男を演じたら彼の右に出る者はいないというほどの魅力を放っていたが、今回はずる賢く計算高い政治家を憎らしいほど完璧に演じる。今年58歳という年齢の深みに加えて、俳優としての演技力をあらためて示しており、まさに新境地だ。

そしてベンといえば、『007』シリーズのQ役や『パディントン』の主人公(声での出演)のほか、『ロンドン・スパイ』など英BBCのドラマでも活躍する個性的な演技派。彼の演じるスコットは不安障害を抱えており、精神安定剤が手放せないものの、持ち前の行動力でしたたかに生きている。エキセントリックながら愛嬌があって天然ボケのキャラが、ベンにしっくりはまる。

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深刻な題材をテーマにしながらも、どこかコミカルでライトなのは、脚本と演技達者な役者たちのおかげだろう。1970年代のファッションや街並みなどの時代考証や関係者の描写も細かく、ドラマの英国らしさも際立っている。

ドラマの背景にあるイギリスの社会事情をあらかじめ知っておくと、内容がさらにわかりやすい。ソープは1961年からの数年間、馬丁であるスコットと性的関係にあったのだが、イングランドとウェールズで男性間の性行為が合法になったのは1967年のこと。つまり当時はまだ違法であり、ソープは法に反した関係を結んでいたことになる。破局後、スコットに過去を暴露されて自身の政治生命が絶たれることを恐れたソープは、元恋人を始末しようと殺し屋を雇い、実際にスコットの愛犬が撃たれるという事件も起きている。1979年にソープは殺人共謀と殺人教唆の疑いで裁判にかけられるも、政治的圧力もあって判決は無罪。しかし社会的評価は失墜し、失脚することになった。

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本作は、イギリスの社会に根強く残る階級問題も提起している。名家出身で、イートン校を経てオックスフォード大学を卒業し、実力者たちと昵懇の仲で、高級レストランで食事を楽しむソープ。一方、母子家庭で育ったスコットは、厩舎で働いたり、住み込みでパブで働いたり、周りの人々を時には利用し、時には助けられながらその日暮らしを続ける。イギリスでは階級が違うと住む場所も職業も社交関係も大きく異なり、別世界で生きているかの如くなのだが、この対照的な二人の人生が、ある時点で交わり、一時深く関係し、また離れていく。

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ドラマの鍵になる、スコットのナショナル・インシュアランス・カードについても説明しておこう。これは日本でいう国民健康保険のこと。カードを紛失したスコットは、幾度もソープに再発行を頼むのだが助けてもらえず、カードがないことで、まともな就職もできず、失業保険を受給することもできない。カードに対する焦りと執着が、権威の象徴であるソープへの恨みへと繋がっていくのである。

ソープは政界から引退後、パーキンソン病を患い、2014年に85歳で死去。一方のスコットは、今年78歳になり、英南西部デヴォンで動物に囲まれて穏やかに暮らしているという。ちなみに、今でも彼はナショナル・インシュアランス・カードを持っていないそうだ。

「僕は語り続けるし、その声は聞き届けられ、その姿は可視化される」と訴えたスコット。それはソープに自分の存在を認めてほしいという心の叫びにも思われる。彼の記憶の中のソープは、自分を"My Little Bunny (かわいいウサギちゃん)"と呼ぶ優しい恋人の姿なのだ。それもやはり愛なのだろう。悲しくもあり可笑しくもあり。喜劇と悲劇が混在する、極上のドラマをぜひ満喫していただきたい。

(文/Yoshie Natori)

Photo:
ヒュー・グラント (C)FAM008/FAMOUS
ベン・ウィショー (C)FAM013/FAMOUS