[Review<レビュー>][シネマウルフ]『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 堕ちた末の魂の咆哮

北関東の寂れた町を舞台に、「ここではないどこか」を夢見ながらも飛び出しそこねた若者があがく姿を描いた『SR サイタマノラッパー』。長回しのカメラが挫折した青年/女子を追い詰め、残酷さにいたたまれない思いでいると、彼らがカメラを見返しスパークする奇跡の瞬間を見て、たまらないカタルシスを覚えるのだ。そんなリアルでヘビーな青春模様が人々の心を捉え、自主映画では異例と言える待望のシリーズ第3弾。しかしこれは……、等身大の日常から飛躍したクライム・サスペンスの趣に驚いた。

本作の主人公は、『SR1』でヒップホップ・クルーSHO-GUNGの仲間たちと別れ、『SR2』には登場もしなかったマイティだ。上京して人気ヒップホップ・クルーの極悪鳥に潜り込んだものの、パシリ扱いだったマイティに、ついにラップ・バトル出場という日の目を見るチャンスが与えられる。だが底力を見せ勝ち抜くマイティは、決勝で八百長を命じられる。音楽なんて楽しくカッコよく好きなようにやるもの。そんな思いは幻想だと嘲笑うように権力者だけが甘い汁をすする不気味なシステマティックな世界が『SR3』の舞台なのだ。

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あがけばあがくほどにマイティは社会の暗黒面に堕ちていく。犯罪に手を染め、彼を頼る恋人ともども、どこまでも……。それにしてもこれは本当に日本の光景なのだろうか。スラム化した悪夢のような光景は東南アジアかSFを思わせる。去年フィルメックスで観たベネチア映画祭銀獅子賞受賞作の中国映画『人山人海』の炭鉱までも思い出した。主人公が彷徨の末行き着く、人が人として扱われない無法地帯を。でもぬるく平和な世に暮らしていた私たちは、今丸腰で足元の不確かなこんな闇に放り出されてしまったのだ……。

大エキストラを集めたことが話題になっていた野外フェスというのも、コドモたちからカネを巻き上げるために仕組まれた汚いものとして描かれていて、どこまでも裏切られる思い。だけどこんな馬鹿げた搾取の構造がまかり通っていいわけはない! マイティも絡むその栃木のフェスのオーディションに応募してきたイックとトムふたりだけのSHO-GUNG、そしてダメダメな風貌から鋭いご当地ライムを繰り出す日光のクルー・征夷大将軍が、罵倒に反抗してやりこめる正常さに胸がすく。彼らは彼らの野望と夢を持って、フェスに参加する。

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クライマックスとなる野外フェス、もちろんマイティは彼らと邂逅する。しかしもちろん『SR』で、それは苦しい自分との闘いだ。とうに捨てたはずの、もう手が届かないほどに眩しいステージ上の仲間に、マイティは必死で汚れた手を伸ばす。まだ終わってねぇ! 夜空に悲痛な虚勢を轟かせながら……。

インディペンデントで独自の道を切り開き、今メジャーも真っ向から描こうとはしない過酷な日本社会の問題に取り組んで、胸高鳴る極上エンターテインメントを作り上げた入江悠監督の挑戦にただただ感服した。2時間近い長尺、執念の長回しに前作以上に息を詰めつつ、マイティの逃亡劇の行く末を見届けてほしい。

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『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 2011年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch

監督・脚本・編集:入江悠

出演:奥野瑛太 駒木根隆介 水澤紳吾 斉藤めぐみ 北村昭博 永澤俊矢 ガンビーノ小林 美保純 ほか

配給:SPOTTED PRODUCTION

(C)2012「SR3」製作委員会

公式サイト

2012年4月14日(土)より渋谷シネクイントほか全国順次公開